声の届く範囲は

小学生の時、すごく声が小さい女の子がいた。

話すのが苦手なのか、単に声が小さいのか、わからない。

とにかく、声がものすごく小さいのだ。

口が微かに動いているのは分かるのだが、音は聞こえてこない。

 

性格がすごく暗いわけでもなく、笑顔も記憶に残っている。

 

その子は教室の一番左後ろに座っている。

国語の授業で音読する際、

「教室の対角の人が聞こえるまで音読を続けなさい」

と先生が言う。

 

皆、物音一つさせず、彼女の声に集中している。

やっぱり聞こえない。

 

半年くらい経った頃、声が少し大きくなってきた。

教室の真ん中、それよりもう少し向こう側まで聞こえるようになってきた。

どうやって判定しているかというと、

どこまで聞こえたか他の生徒が手を挙げるのだ。

 

最終的には教室中になんとか届くようになってた。

みんな拍手していた。

 

 

あの子にとってあの教室の風景はどんな風に見えていたんだろうか。

教室中が完全に自分の声に集中し、どこまで声が聞こえたか手を上げる生徒の範囲で

判定され、もっと頑張れと言われ。

 

今日は国語がある 出席番号的に今日は当たるかもしれない 1時間後には国語だ

 

自分がもしあの子の状況だったら、

国語が大嫌いになっていただろう。

あの子はどう思っていたんだろう。

 

中学は学区が異なったので違う学校になったはずだ。

あまり覚えていない。

 

 

あの子が笑顔だったから、みんな安心していたのかもしれない。