コーヒーブレイク

会社に行くのが面倒でスタバで時間を潰している。文字通り時間を潰し、なんにもならない先送りを繰り返している。

 

窓際のコンセントがある席に大学生2人が座った。ジャージ姿で裾と靴下の間から見える素足が眩しい。

 

時刻は8時半過ぎ。

一人が「講義パソコンで受ける?」と聞くので、わたしはコーヒーを買ったばかりなのに今から大学に急いで行って行くつもりなのかと思った。ゆっくりコーヒー飲みなよと。

 

「携帯で受けるー」

 

マジか。

講義中に携帯を触っていて教授に怒られたことはあっても、携帯触ってないと怒られるかもしれない時代が来ていた。

 

海外の大学に行った人がよく言う話で、大学がどこかわからず道を尋ねるともう大学内にいるよと言われたという冗談がある。大学が大き過ぎて街みたいになってるので知らず知らずのうちに入ってしまっているらしい。

 

電車の中で携帯を弄っている若者は時間を潰しているのでは、ないかもしれない。

あそこを左です

数ヶ月前、実家が引っ越した。

 

私は大学進学と同時に実家を出たので、18歳まで住んでいた実家は、もうない。

記憶は朧げだか、小学校に入学する少し前に元実家に引っ越したので、11年くらいは住んだのだろう。幼稚園を卒業するまでの少しの間、母親が運転する原付の足場に座り込んで通園し、ウインカーを出す係をしていたのをよく覚えている。よく捕まらなかったものだ。

幼稚園児には時速30kmの風は強風だった。

 

元実家に引っ越した直後に大雨が降り、新築の家は見事に雨漏りをした。窓枠がびしょびしょになり、こどもながらかなり悲しい気持ちになった。どうやら外壁の施工に問題があったらしい。新築の家に毎日のように業者の人が来て落ち着かなかったのを覚えている。工事の際、外壁の色を変更できたらしく、色は母親が決定したらしい。

 

家の周りにに足場が組まれ、全体がグレーの布で覆われた。

外壁工事が終了し、新しい家が現れた。

そこには、真っ青の家があった。

 

もう、全面真っ青。

驚くほど青。

空かと言わんばかりの青。

道案内するときに「青い家を左折」と目印にされるほどである。

 

父親は、なぜ青にしたのかと問うていたが、どうせ今思うと母親に何色にするか聞かれた際に何色でもいいと答えたのであろう。いつもそうだ。なんでもいいと言いながら、なんでもよくないのだ。

 

そんな真っ青の実家はもう、実家ではない。そんなに遠いところには引っ越してないらしいが、詳しい住所は聞いていない。

 

滅多に帰省しないのだが、次帰る時私はどこに帰ればいいのだろうか。

それはもはや帰省なのだろうか。

もし帰ったとしても、ただいまではなく、おじゃましますと言ってしまいそうだ。

 

電気のスイッチがどこにあるかも、コンセントがどこにあるかも、トイレがどこにあるかも、お湯のスイッチがどこにあるかもわからない。

真っ暗闇のなかで一発で電気のスイッチを入れられたり、真夜中に電気も点けず階段を降りトイレに行くこともできたあの家はもう実家ではなくなってしまった。

 

世間話をしているとき、ふとした沈黙を埋めるために聞かれたさして興味のない実家はどこなのかという質問にはなんと答えればよいのだろうか。

 

今はもうくすんでしまった青い家。

次は何色の家に住んでるんだろ。

 

 

 

 

Vamos!!!

茶店でチャイを飲みながらよしもとばななのもしもし下北沢を読んでいる。

 

茶店から通行人を眺めるのが好きだ。

2階や3階から見下ろせればより良くて、通勤時間帯なら尚良い。

 

ほとんどの人はスーツを着ていて、涼しくなってきたとはいえまだ暑いのにジャケットを着、ネクタイを締めている人も多い。

 

走る走る走る

 

それだけ毎日走っていると、子供の運動会で久しぶりに走って肉離れになる親はいなくなるのではないかと思うくらいに、みんな走っている。

 

それは、信号が点滅しているとか、電車の発射ベルが聞こえているとか、が原因になっているようである。

駅のホームにいると、2段飛ばしで階段を猛ダッシュして来たと思ったら、来ていたのは逆方向の電車でガッカリしている人もよく見かける。

 

 

走る走る走る

 

 

目の前のガラス向こうでは、運動会が行われている。

 

わたしは信号が点滅したら直前でも止まってしまうし、真夜中で1台も車が来ていなくても赤信号で止まってしまう。

電車の発車ベルが鳴っていたらまだ乗れそうでも乗らず、後ろから来た人が何人も電車に乗り込んで行くのを見守って、次の電車に乗る。

 

みんな、なぜそんなに急いでいるのかわからなかった。

お腹が空いているのか、会いたい人がいるのか、仕事が忙しいのか、聴きたいラジオがあるのか。

 

なにか理由があるのかなぁとずっと思っていた。

どうやら違うかもしれない。

信号が点滅したら、発車ベルが聞こえたら、走ってみようかな。

 

いわんや

 できるはずもないし、する必要もないが、すぐになにごとも完璧にしようとしてしまう。

 

料理をするとき、レシピに「大さじ1」と書かれていたら、大さじ1を測らないと気が済まない。

なにかを勉強するとき、教科書の「この教科書の使い方」から読まないと気が済まない。

アイロンを掛けるとき、シワひとつ残したくない。

 

 

最初にも書いたが、できるはずない・する必要もないとわかっているのだ。

しかし、やっぱり完璧というものを意識してしまう。

そして、どうせやっても完璧にできないのだから、最初からやらなければいいとやめてしまうのである。

 

なにか趣味を見つけても、最初は成長して楽しいのだが、そのうち自分の限界が見えてきて、「あ、これは完璧にできないな」とか「プロのレベルまでは到底到達することはできまい」とやめてしまう。

 

この癖?に気づいたのは、本当に最近のことである。

詳しいきっかけは忘れたが、確かお金がなくて外食できず、久しぶりに自炊しなければならなくなったとき、空腹を満たせればいいと思って作った料理が意外と美味しかったときであったと思う。

なんだ〜適当に作ってもまぁまぁおいしいじゃん。とその時は何気なく食べていた。

 

昔から「お前は料理にハマりそうなのに、ハマらないな」とよく言われていた。

自分でも確かにそうだな〜と思うこともあったのだが、一回もハマることなく、むしろほぼ毎日外食の日々であった。

どうしても「料理」となると、レストランで出てくるようなモノを作らなければならないという意識が働いていたのだと思う。

魚料理を作るときは、捌くところから、いや釣るところから始めなければならない。

パスタの茹で汁は塩分濃度1.4%。沸騰して水が蒸発していくが、果たしてどう1.4%を維持すればよいのだろうか。

こういう謎の義務感・恐怖心があったのだ。

自炊なのに。

 

しかし、何気なく作ったごはんを食べたとき、おいしいのである。

これでよくない?と思えた瞬間、なんだか生きるのが楽になった気がした。

なんでその時はそう思えたのかわからないが、まぁそれでよいではないか。

自分のことであっても完璧には理解できないのだ。

 

 

 

 

コンビニエンス

ある日、喫茶店で、

「アイスティ、氷抜きでお願いします。」

と注文したら、

「氷抜きでは、アイスになりませんが...」

と言われてはっとした。

 

それはもうコンビニで売っているような

アイスティとデカデカと書かれた

牛乳パックからグラスに注がれるとばかり思っていたのである。

 

店員は苦笑いしているが、

こちらは大赤面である。

氷ありのアイスティでお願いします。

と確かに当たり前の注文をして、

なるほど、と唸った。

 

後日、喫茶店で、

ミックスジュースを注文した。

キッチンから聞こえてきた

ごぉぉぉおおおお

という何かをかき混ぜる音で、

嬉しくなった。

どんぐりの背比べ

10年来の友達をブロックした。

 

そいつは大学卒業後も不定期に会う仲で、

会う度に大学の部室で話したようなことを

酒を飲みながら話していた。

 

そいつは友達の中でも一番のクズで、

食い意地が半端じゃなくプライドが高く

融通の効かない奴だった。

 

そいつはある日家に遊びにきて、

新しく買ったプロジェクターで映画を見ていた。

Netflixで見る映画を選ぶ時、当たり前のようにそいつが見たい映画を見ることになった。

数日前、瓶のジンジャーエールを箱買いしていたので、冷蔵庫に大量に冷やしていた。

飲んでいいよと言うと、なかなかのペースで瓶をポンポン開けていく。

 

「そんなにジンジャーエール好きだったっけ?」

「タダだから飲んでおかないとと思って」

 

これくらいクズだ。

どんなクズでも、クズだなーと思いながら交友は続いていた。

向こうも私のことをクズだと思っていただろう。

だからこそ続いていたんだと思う。

 

ある日、夜21:47

「週末なんかする?」

とLINEが来た。

その時なにをしていたか覚えていないが、通知でLINEを見て、まぁ明日の朝返信すればいいやとスルーした。未読スルーである。

そんなことは今まで何度もあった。

 

次の日の朝、携帯を見ると、

2:10 「おい!」

と通知が表示された。

 

なんだかムカついて、未読のまま(通知で読んではいるが)、ブロックした。

 

なぜその時ブロックしたのか未だに自分でもよくわからない。

ただ、ひたすらにムカついたのである。

こんなことで?と思いながらも、

なぜか今までで一番ムカついた。

 

 

そいつが会費を払ってアカウントをシェアしてくれているNetflixで、今日も映画を観る。

 

成人式

赤、白、青、黄

鮮やかな振り袖を身に着け、

髪を飾る新成人が駅にたくさんいた。

緊張した面持ちで、数人で輪を作っている。

しばらくすると、同じく成人を迎える娘を持つのであろう男性が運転する

ワゴン車が駅前に止まり、晴れ着の新成人はありがとうございますと

言いながら乗り込んでいく。

皆笑顔だ。思わず目を背けてしまった。

 

最近、毎週金曜日に飲みに出かけるようになっている。

以前は全くと言っていいほどお酒を飲まなかったのに、

20代最後の歳になって、朝まで酒を飲むのが習慣になってしまった。

金曜日、早い時間からお店に入り、

お店を転々としながら知らない人とどうでもいい話をし、

気付いたら外は明るくなっている。

 

ふとこんな話を昔からの友達にすると、

すごく珍しがられる。

酒、タバコ、ギャンブル、女

こういうものに全くして来なかったことを知っているからだ。

全く興味がないと思っていた。

酒と涙と男と女

すべて別世界の話だった。

 

いつも行くお店はどこも10人も入れば満席で、

それでも入ってくる場合は、立呑か後ろの棚で酒を飲む。

何年前からあるのかわからないそのお店はもちろん喫煙可能である。

みんなぷかぷかタバコを吸っているので、店内は霞んでいる。

私自身はタバコは吸わないが、

祖父、親父、叔父、叔母と親戚に喫煙者が多かったせいか、

煙は全く気にならない。

吸ったこともないくせに、

あー、タバコ吸いたいなぁ

と思うこともあった。

タバコに気をつけた瞬間の匂いは大好きだった。

 

ある日、たまたま隣に座った女性が

キャメルを1本くれた。

初めてまるまる1本タバコを吸った。

すごく美味しいと言ったら、

もう1本くれた。

その女性が火を付けてくれて、

うまいっしょ

となんとも言えない表情で言ってくる。

笑顔のような悲しい顔のようなよくわからない表情だった。

またタバコあげるね、言いながら出ていった。

 

駅で新成人が乗った車が出発するのを見送った後、

駅前にあるタバコ屋さんでキャメルを買った。

店主のおっちゃんに初めて買うことがバレないように、

軽い感じで、キャメルある?とタメ口で言う。

完全に上ずっている

キャメルのどれ?と指を指して促される。

わからん。全くわからん。と思いながら、

普通の。

一番嫌いな普通という言葉を口走ってしまったことを後悔しながら、お金を出した。

 

強盗犯のように、大事にカバンを抱えながら喫茶店に入った。

しまった、ここの喫茶店はテレビが結構な音量で流れいるのゆっくりできないと

思いながら、たまごサンドを注文した。

ほんとはナポリタンがよかったが、今日はできないらしい。

 

不慣れな手付きでタバコを開ける。

新品のタバコはみっちり詰まっているので、なかなか取り出せない。

テレビではさかなくんが海に潜って沈没船に入り、ギョギョと言っている。

さっきあった地震に関する速報が表示されている。震度4。津波はない。

やっと取り出した1本に、さっき一緒に買った緑色の100円ライターで火をつける。

 

まずい。

 

酒場の女に貰ったたばこと(たぶん)一緒のはずなのに、まずい。

 

びくびくしていて、たまごサンドしか注文していないことに気づき、

追加でホットコーヒーを注文する。

 

もう一口吸ってみるが、やはり美味しくない。

おっちゃんが指さしていた他のキャメルを思い出そうとするが、

全く覚えていない。

酒場ではむせることなくスパスパ吸えたのに、毎回むせる。

中学生が先輩にタバコを吸わされているみたいだと思いながら1本吸い切り、

煙が出ないように、入念に揉み消す。

 

思いのほか量の多いたまごサンドを食べきり、

ほぼ冷めたホットコーヒーを飲みながら、

もう1本火をつけてみる。

そういえばこの喫茶店は少し寒い。

全然思っていた味がしないことに落ち込みながら、

少し本を読んで、会計を済ませる。

 

そのまままっすぐ家に帰り、

すぐに歯を磨いた。

いつもより入念に。

煙の感じをいち早く口の中から消し去りたかった。

 

まだ大人になるのは、早いらしい。

遅れてきた思春期みたいなものに焦燥感を感じながら、

手に残ったタバコの臭いを嗅いでいる。

 

f:id:omaru181123:20190114163639j:image