わたしとあなた

髪をバッサリ切った。

 

頭に残った髪の長さの方が短いくらいだ。

 

なぜか昔から長髪への憧れがあった。

何度か伸ばすことに挑戦したが、

耳が隠れるか隠れないかの長さでいつも短く切ってしまっていた。

 

 

それは、長くなった髪が鬱陶しくなったからではなかった。

 

 

周りの人が一斉に攻撃してくるのだ。

「男なんだから髪短くしなよ」

「普通じゃない」

「何になりたいの?」

 

数年おきに髪を伸ばしたい欲が訪れ、伸ばしているのだが、

その時の周りの人間関係や環境に関係なく同じような攻撃が繰り返されてきた。

 

少し「普通」から外れ始めた人を見つけると、

普通に引き込もう、直そう、矯正しようと、

恐らく発言している本人も自覚しない自然さで攻撃してくる。

 

いつもはそこで心が折れ、切ってしまっていた。

今回伸ばした時も同じように攻撃を受けながらも順調に伸ばしていた。

 

耳は完全に隠れ、後ろで1つに結わえるくらいまで伸びていた。

既に周囲の人は攻撃にも疲れ、髪の長さについて触れることはなくなっていた。

 

しかし、冒頭で書いた通りバッサリ切った。

単純に似合わないと思ったからだ。

毎日少しずつ髪が伸び、毎日鏡で顔を見ているはずなのに、

毎回のように「これは自分か?」と見慣れない日々が続き、

それに疲れてしまった。

 

 

すると、驚くほどに

「やはり短い方がいい」

と皆が待ってましたとばかりに笑顔で褒めてくる。

長い時にはなにも言わなかった人も、

褒めるとなるとハードルが下がるのか、

ますます褒めてくる。

 

攻撃した甲斐があった。

そう思っているかもしれない。

 

なぜ「こういう人もいるんだなぁ」とならないのだろうか。

共感なんてしなくてもいいではないか。

なにが正解かなんて決めなくてもいいではないか。

私はわたし、あなたはあなた。

それではダメなのだろうか。